免疫複合体疾患(1972:Dixon)

Dixon FJ. Immune complex diseases. J Invest Dermatol. 1972;59(6):413-415. doi:10.1111/1523-1747.ep12627589

免疫複合体疾患の必須の特性は、循環系か腸液で形成される抗原―抗体複合体によって生じる点である。形成された複合体は多くの場合は、細網内皮細胞と血中の白血球の貪食作用によって無害な終末産物へ溶解・分解されるが、小片がこれらの細胞から免れると、糸球体や血管のような人体の濾過構造を持つ部位に蓄積していき、そこで傷害を引き起こす

この蓄積は明らかに、解剖学的・生理学的な要因であって、免疫学的要因ではなく、傷害・病的部位は原因となる抗原や抗体との免疫学的関連性を持たない。この観点から、免疫複合体疾患は、標的組織・病的組織の抗原成分と特異的に反応する抗体を産生し、組織固着抗原の分布が傷害部位を決定する”抗組織抗体”型の免疫疾患とは一線を画すものである。更に、免疫複合体疾患は、複合体の物理的・生物学的特徴と、濾過構造にある局所的な透過性因子に依存して複数部位・組織で生じる。

免疫複合体の病原性は、大部分が抗原と抗体の比率によって決定される。つまり、大きさや抗体の生物学的特性である。抗体優位の複合体は不可溶性を呈し、急速に貪食され、循環せず、濾過部位に蓄積することは滅多にない。抗原優位の複合体、抗体1:抗原2などは、通常小さすぎて生理学的なフィルターに検知されず、更に、そうした抗原優位の複合体は、補体活性能を持つ免疫グロブリン分子の配列を含まない。また、補体活性の必須要素は、複合体中の抗体の性質にあり、これは抗体の中に補体活性能を持つものと持たないものがある為である。

抗原の免疫化学的特徴は、起炎症性において重要因子ではないように思われる一方、巨大タンパク分子とビリオン自体が抗原として作用すると、抗原抗体比に依らず巨大な非濾過性の抗原抗体複合体が必然的に生成される為、抗原のサイズが関与する可能性がある。

免疫複合体疾患の病原機序に関する知識の大部分は、実験的・臨床的な血清病研究から得られた。外来血清タンパクの単回大量注射により生じるこれらの疾患は、急性炎症性であり、血管・心臓・腎臓・リンパ組織・皮膚や関節など多系統の全身障害であり、これらは急性糸球体腎炎、リウマチ熱、全身性エリテマトーデス、多発性動脈炎、間接リウマチに一部類似する。

ウサギに投じる抗原として同位体標識の牛胎児血清アルブミン(BSA)を使用すると、この疾患含む様々な免疫学的事象を定量化可能となる。図表の通り、ウサギにおけるBSAへの免疫反応は、注射後11日目から循環する抗原の急速な末端除去の開始により示されている。

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図.ウサギに同位体標識のBSA注射後の免疫反応のダイナミクス

循環する血清タンパク抗原の運命は、血管内外の抗原量が平衡状態にある初期の二日間と、後に一週間以上持続する緩やかな減少が続き、この期間中抗原は非免疫学的に分解され、最後に急速な末端の免疫除去に特徴づけられる。循環する抗原抗体複合体の数値は、免疫除去が開始する直前の8日目に出現し、その後2-3日間に増加する。循環する複合体の増加と免疫除去の開始の重複期は、血清補体価は正常値の半分にまで低下する。推測だが、抗体産生と複合体の大きさと量の増大に連れて、それらは血清中の補体と反応する能力を持ち、補体は複合体の大きさを増大させ、貪食させやすくし、それによって除去を加速させる。

免疫複合体の大きさの重要性は、循環する複合体の大きさが19s以上に膨らんだウサギ個体にのみ明らかな血清病が生じた事実によって描写される。

一度抗原が除去されると、循環系に遊離抗体が出現する。循環性複合体の出現に一致して、臨床・組織学的に血清病症状が生じる。循環性複合体の除去の後に血清病症状も消失する。

免疫複合体が真にこの疾患の病因媒体ならば、病変部位にそれらが発見されると予想され、これは蛍光抗体技術に有用化されてきた。BSAと宿主の免疫グロブリンと補体が、病的な糸球体と動脈の部位で全て検出された。

これらの免疫学的発展は、炎症反応を介在する二次的な体液性・細胞性免疫の多くの事象の誘因となる。複合体形成に連れて、複合体は、恐らく同種細胞親和性抗体を介して好塩基球に作用し、その結果、ウサギにおけるヒスタミンとセロトニンの主要な貯蔵である血小板が凝集し、それらを放出するように作用する。

この血管作用性物質の全身での放出は、その後の恐らくは血管透過性の上昇により、血管床の様々な部位への複合体の沈着に必須であり、この沈着は抗ヒスタミン剤と抗セロトニン剤で阻害される。

複合体が糸球体、動脈などに沈着し始めるに連れて、補体も活性させ、補体由来の走化性因子は、局所組織破壊を引き起こすタンパク分解酵素と塩基性タンパク質を放出する多形核白血球を引き寄せる。また、複合体は、急性血清病の糸球体反応の顕著な側面である内皮増殖も引き起こす。

血清病を発症した動物の補体と多形核白血球を枯渇させても、関連の糸球体腎炎を完全に抑制することはできないため、複合体は、補体や多形核白血球とは独立したルートで、沈着した部位を傷害させると思われるが、その性質は未だよくわかっていない。

ヒトの特発性血清病様疾患に、より臨床的には類似する血清病の慢性形態は、比較的少量の外来血清タンパクをウサギに日毎に注射することで生成可能である。この手順を適切に実施すれば、毎日、少なくとも数時間に亘って、循環性の複合体が存在することになる。そうしたウサギは慢性の膜様か進行性糸球体腎炎を発症させ、単回接種で生じる血清病の急性増殖性糸球体腎炎とは形態学的に異なる。抗原抗体システムと炎症の仲介経路等は血清病のどちらの種類とも類似するように見受けられ、従って疾患の形態学的表現の差異は、推測するに免疫複合体に対する暴露の量的・時間的側面に関連する。この事実は、特定の人間の疾患様式と抗原抗体複合体のある形式を関連させる時に思い出す価値がある。

血清病における免疫複合体の役割に関する我々の理解は、適度に網羅されている。何故なら抗原が識別され、同位体と免疫蛍光技術により追跡可能であり、それによって複合体形成と末路の詳細な観察を可能にしている。免疫複合体の病原性から予想される人間の疾患の多くは、抗原が分からず、免疫複合体の直接的な探索とは程遠く、間接的・或は状況証拠に基づいた曖昧さが根底にある。

人間の疾患における免疫複合体の病原性における初期の示唆は、一方で血清病、他方で糸球体腎炎、リウマチ熱、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、種々の血管炎との臨床学的・組織病理学的類似性に基づいている。この関係性は、血清病の病原性理解が進む以前に仮定されたものだ。

循環性免疫複合体の免疫学的・生理学的な特定は、リウマチ熱、全身性エリテマトーデス、高グロブリン紫斑、オーストラリア抗原感染症の患者に存在する免疫複合体に対して示唆的証拠をもたらした。

循環する抗原抗体複合体を含む免疫グロブリンの実証に成功した技術は、
1)分析的超濾過法
2)寒冷沈降反応
3)補体Clq要素反応
4)IgMリウマチ因子反応

1)分析的超濾過法
-定量的ではあるが、大きさと蛋白質複合体の量の測定において比較的感度が劣る
(2)寒冷沈降反応
-簡易に実施でき、温度に付随して可溶性を呈する複合体の分離において、しばしば高い感度を示す
(3)補体Clq要素反応
-複合体、および血清の構成因子、例えばDNAやエンドトキシンを含む免疫グロブリンの検出能のある方法
(4) IgMリウマチ因子反応
-選択されたリウマチ因子は、特にリウマチ患者にみられる複合体を含む少量の免疫グロブリンと反応する。

多様な免疫複合体疾患の中で最も理解が進んでいるのは全身性エリテマトーデスだ。この疾患では、様々な宿主の細胞抗原に反応する多重抗体が存在する。最もよく知られているのは診断用の抗核抗体、特に抗DNA抗体である。ループスの経過中、ある場合は血清中にこれら細胞抗原が検出され(抗原過剰)、ある時は抗原に対する遊離抗体が検出される(抗体過剰)。

抗原過剰から抗体過剰、或いはその逆の転換中、免疫複合体が血清中に存在するのは必然であり、その状況は極めて血清病に似ている。これら複合体は氷冷沈降法かClqの陽性反応によって証明可能かもしれない。予想されるように、免疫複合体の循環中、疾患の症状が悪化する。これら複合体は糸球体と大血管に沈着し、この疾患における最も深刻な症状を呈する糸球体腎炎と血管炎に関連する。腎臓生検は、この腎臓病の研究に極めて有効である。核(DNA)抗原が、宿主の免疫グロブリンと補体と共に病的糸球体に発見される。加えて、抗核(DNA)抗体が、ループス患者の腎臓から溶離されている。このように、免疫複合体の構成要素の全てが、病的臓器で同定されている。

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