プリオンの遺伝子不要の進化

プリオンの三次元構造

Evolution without genes – prions can evolve and adapt too
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Authr:Ed Yong Date:Dec 31, 2009


「進化」の正式な定義を探すとしたら、何かしら遺伝子への言及に触れる可能性が高い。Amerian Heritage Dictionaryでは、「遺伝子変異」に作用する自然選択について議論しており、Wikipediaは”世代続けて人口集団に生じる遺伝物質の変化”について、そしてTalkOriginは「遺伝物質を介して」受け継がれる変化について議論している。しかし、「ダーウィンの年」が終わりに近づくにつれ、新たな研究は、これらの定義がいずれも狭すぎることを示唆している。

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フロリダのScripps研究所のJiali Liがプリオン―狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、クールー病の原因となる感染性タンパク質―が、DNAや、その姉妹分子のRNAを一本も必要とせずにダーウィンの進化を遂げることを発見した(Li et al., 2010)。

プリオンはPrPと呼ばれるタンパク質の異常な型である。全てのタンパク質と同様、プリオンは複雑な三次元構造に折り畳まれたアミノ酸の鎖で出来ている。プリオンはPrPが不正確に折り畳まれた型であり、このPrPScと呼ばれるミスフォールド型は、社会的、福音的、殺人的である。PrPScは正常型プリオンタンパク質を異常型へ変換し、急速に集まって巨大な塊となり、周辺組織を損傷・死滅させる。

Liは、最初は同一だったプリオンの集団に変異型が忍び寄ることを発見した。プリオンのアミノ酸配列は同じままだが、既に異常構造をしているプリオンは益々捻じれることになる。この”突然変異”型は、環境次第で成功の度合いが異なる。脳組織で繁栄するものも、他の細胞型で繁栄する物もある。何れの場合も、自然選択によって最も成功率の低いものが淘汰される。生き残った物は正常型プリオンタンパク質の折り畳みを変化させることで、その構造を「次世代」に伝える。

このプロセスはダーウィンの進化論に則っており、ウイルスやバクテリア、その他の生物の遺伝物質を形成する同じ原理である。DNAでは、有名な二重らせんを構成する塩基の変化として突然変異は発生する。プリオンでは、突然変異は本質的に分子的折り紙の異なる型である。どちらの場合でも、突然変異は選択的に受け継がれ、薬剤耐性などの適応をもたらす。プリオンでは、突然変異は遺伝物質の不在下で発生する。

仮にプリオンが進化し、バクテリアや真菌と同様、適応抵抗性を示すとしたら、それはプリオンが生きていることを意味するだろうか?Liの研究室を率いるCharles Weissmanは、プリオンが生殖において完全に宿主に依存的であることから、そのようには考えていない。プリオンは自身のコピー作成の為に宿主のゲノムにコードされた正常型タンパク質を必要とする。曰く、「プリオンが突然変異を起こし、環境適応するという驚くべき発見は、プリオンを”生きている”状態に格上げすることなく、更なる生物の特性をプリオンに与えるものである。

プリオンには多様な株がある。各々が僅かに異なる方法で折り畳まれたPrPScの型であり、新型が突然発生する(Legname et al., 2006)。プリオンの正確な構造を解明することは困難であり、通常、プリオンが引き起こす症状や疾患、顕在化までに要する期間によって特徴化される。

Liは、脳組織から採取されたプリオンは、実験室で培養された細胞で増殖したものと異なることを発見した。脳に適応したプリオンは神経組織に感染する能力を有し、他の株の増殖を完全に阻害するスワイソニンと呼ばれる薬剤への耐性を持つ。細胞適応型プリオンにはどちらの能力も持たず、細胞培養での増殖に特化している。

Liが脳のプリオンを細胞培養に移した所、新環境に徐々に適応していくことが判明した。12″世代”までには、細胞適応型プリオンと区別がつかなくなった。神経組織への感染能力が喪失し、培養細胞内でより速く優先的に増殖するようになった。Liがこのプリオンを脳組織に再び戻すと、脳適応型が再び優勢となった。

また、Liは、プリオンが薬剤耐性を獲得することを発見した。彼女は細胞-プリオンをスワイソニンで処理した。当初、この薬剤はプリオン集団を壊滅させ、感染細胞の割合を35%から7%へと5倍に減少させた。しかし、異常タンパク質は復活し、細胞の約25%へと感染した。僅か2回分の増殖後、スワイソニンに曝された細胞のプリオンは完全に薬剤耐性を獲得した。薬剤を除去すると、非耐性型が再び優勢となり、プリオンは潜伏に移行した。

更に実験を進めると、耐性株は既に集団の中に潜んでいることが分かった。しかし、成長速度が遅く、通常は少数派であり、プリオン200個当たり1個しか存在しない。スワイソニンでその集団を爆発させると、、これら少数の耐性株が優勢になったのだ。Li曰く、プリオン集団は多数の株や亜株で構成され、その全てが同じアミノ酸配列の異なる折り畳み構造をしているという。環境上の進化的圧力が、どの株を優勢にするかを決定する。

しかし、突然変異型が突然発生する。集団が全て同じ株(クローニング技術で作れる)で構成されていようと、耐性/感受性変異株は極めて短いスパンで自然に発生する。プリオンはとうやら適応が非常に早いようだ。プリオンが迅速に薬剤耐性を獲得する事実は、CJDや牛海綿状脳炎(BSE)のようなプリオン病の新規治療を模索する科学者にとって重要なニュースである。異常プリオン自体を標的とするより、そもそもの正常PrP産生レベルを低下させる方が得策かもしれない。前者の戦術は耐性株の出現で容易に妨害されるが、一方の後者の戦術は、プリオンと協働する原料の自然選択を否定する。

文献

Li, J., Browning, S., Mahal, S. P., Oelschlegel, A. M., & Weissmann, C. (2010). Darwinian Evolution of Prions in Cell Culture. Science, 327(5967), 869–872. https://doi.org/10.1126/science.1183218

Legname, G., Nguyen, H.-O. B., Peretz, D., Cohen, F. E., DeArmond, S. J., & Prusiner, S. B. (2006). Continuum of prion protein structures enciphers a multitude of prion isolate-specified phenotypes. Proceedings of the National Academy of Sciences, 103(50), 19105–19110. https://doi.org/10.1073/pnas.0608970103

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