ビタミンB6欠乏の生化学的影響

BIOCHEMICAL EFFECTS OF VITAMIN B6 DEFICIENCY. (1954). Nutrition Reviews, 12(6), 186–187. https://doi.org/10.1111/j.1753-4887.1954.tb03274.x

 ビタミンB6はタンパク質代謝への関与が証明されている。ピリドキサールリン酸塩は、特定のアミノ酸脱炭酸酵素とアミノ酸転移酵素の補酵素として作用し(Nutrition Reviews 4, 232,1946)、タンパク質の摂取量増加に応じてビタミンB6の必要量が増加する(E. C. Miller and C. A. Baumann, J. Biol. Chem. 167, 551 (1946))。また、ビタミンB6は脂質代謝にも関与する。A. G. Hogan and L. R. Richardson (J. Nutrition 8, 385 (1934))らは、ビタミン源に紫外線照射した酵母を含有する精製食をラットに給餌したところ、G. 0. Burr and M. M. Burr (J. Biol. Chem. 82, 346 (1929))らの必須脂肪酸欠乏食給餌ラットに類似する皮膚炎を発症することを報告した。後に、紫外線照射によって破壊される抗皮膚炎因子がビタミンB6だと証明された。更に、T. w. Birch (Ibid. 124,775 (1938)は、皮膚炎の予防にはビタミンB6と必須脂肪酸の両方が必要と報告し、ビタミンB6が必須脂肪酸の利用に不可欠だと示唆した。

 ラットのビタミンB6欠乏に付随する生化学的変化に関する包括的研究がJ. R. Beatonら(J. Biol. Chem. 207, 385 (1964)によって報告された。このデータは、動物に欠乏食を与えてから様々な時間間隔で得られたもので、動物の一般的状態に対する様々な生化学的変化の相対的寄与を示すものである点で特に貴重である。ラットは、20%のカゼイン、20%のコーン油、ビタミンB6を除く通常のビタミンを含む精製基礎食を与えられた。予備的に7日間、塩酸ピリドキシン50マイクログラムを毎日与えた。その後、動物たちは3群に分けられた。一つはビタミンB6フリー食が給餌され、残り二群にはこの基礎食に50μg/日のピリドキシン塩酸塩が与えられた。ピリドキシンを給餌されたラット群の内、片方は欠乏食群とペアフィードにし、第三群のラットは自由に食餌させた。実験期間は8週間継続した。この期間中に様々な時間間隔で動物たちを殺処分し、様々な体組成と組織中酵素を決定した。

 ビタミンB6欠乏食ラットは実験開始時点から成長率の遅れが見え始めた。また、肝臓と枝肉のビタミンB6濃度が、欠乏食開始僅か一週間で減少した。動物たちには欠乏食投与前に一週間ピリドキシンを投与したものの、十分量を貯蔵できないようである。これに関連して、事前に十分量のピリドキシンを給餌された猿が、食事からのビタミン除去後2週間以内に体重減少させたことが報告されている。(G. A. Emerson, G. E. Boxer, and E. W. Gilfillan, Fed. Proc. 13, 466 (1.964))。B6欠乏により肝臓のAGT酵素(アスパラギン-グルタミン転移酵素)の活性に顕著な影響はなかったが、肝臓ALT(アラニン-グルタミン転移酵素)は欠乏により影響をうけた。後者の酵素の活性は、B6投与により8週間の実験期間を通じて容易に増加した。対照的に、B6欠乏ラットの肝臓酵素活性の増加は検出されてなかった。6週間の食餌後、B6欠乏ラットの肝臓の転移酵素活性は、B6食餌動物の凡そ半分であった。肝臓切片での尿素形成率は、ラットをB6欠乏にすると増加した。この観察は、B6欠乏で血中尿素値の増加を報告したBeatonら(J. R. Beaton, F. I. Smith, and E. W. McHenry, J. Biol. Chem. 201, 587 (1953))による初期の報告結果と一致する。

 ピリドキシン補給のペアフィード群と自由補給群では、全ての酵素測定値で類似の結果が得られた。

 恐らく最も興味深いデータが、これらの食餌によるラットの様々な枝肉組成で報告された。全枝肉の水分、タンパク質、粗脂肪酸が、実験開始時点で屠殺したラットと、8週間の実験食を給餌したラットで決定した。そうして、ラット一匹当たりで様々な組成の純益が算出された。B6を自由に給餌されたラットで、枝肉の水分量が他二群より顕著に多く検出された。ペアフィード群では、欠乏食ラットより僅かに上回る程度であった。欠乏食ラットとペアフィードラットからほぼ同量のタンパク質が検出され、自由食ラットより僅かに下回った。

 最も顕著な違いが、全粗脂肪酸の検出量で観測された。B6給餌動物は、ペアフィード群も自由食群何れも、欠乏動物の凡そ10倍の脂肪酸が検出された。従って欠乏ラットとペアフィードラットの体重差は、主に体脂肪の差に寄るものである。

 これらの実験結果は、B6欠乏ラットで脂質代謝が著しく乱されることを示唆している。基礎食には十分量の脂肪と必須脂肪酸を含有されることから、B6欠乏ラットが枝肉に脂肪を蓄積できなかったことを脂肪酸合成障害に帰属させることはできない。B6は、組織の脂肪に脂肪酸を沈着させる上で何等かの形で必要なものだと思われる。これは、B6が必須脂肪酸の利用に必須である可能性を示唆したBirch(loc. Cit.)の初期の報告を想起させる。

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