汎適応症候群(1936)

Selye, H. (1936). A Syndrome produced by Diverse Nocuous Agents. Nature, 138(3479), 32–32. https://doi.org/10.1038/138032a0

「多様な有害因子が生み出す症候群」

ラットでの実験によると、寒冷への暴露、外科的損傷、脊髄ショックの発生(脊髄の切断)、過剰な筋肉運動、亜致死量の薬物(アドレナリン、アトロピン、モルヒネ、ホルムアルデヒド等)の中毒などによる急性の非特異的な有害物質によって生体が重篤な損傷を受けると、典型的な症状が発現し、その症状は損傷の原因物質の性質や使用した薬剤の薬理学的タイプとは無関係であり、そうした損傷そのものに対する反応を示している。

この症候群は3つの段階を経て発現する。傷害から6-48時間後の初期段階では、
・胸腺、脾臓、リンパ腺、肝臓の急速な萎縮
・脂肪組織の消失
・主に胸腺と緩い後腹膜結合組織の浮腫形成
・胸膜/腹膜浸出液の蓄積
・筋緊張の喪失
・体温の低下
・消化管、特に胃、小腸、虫垂に急性糜爛の形成
・副腎から皮質脂質およびクロマフィン物質の喪失
・時に皮膚の充血、眼球突出、涙腺や唾液腺の増加
が観測される。特に重篤な場合は肝臓の帯状壊死や水晶体の曇りが観測される。第2段階では、損傷後48時間から、
・副腎は大きく肥大するが、脂質顆粒は回復し、髄質のクロマフィン細胞は液胞化する
・浮腫は消失し始める
・下垂体に膨大な好塩基球が出現する
・胸腺が過形成の傾向を示す(モルモットではより顕著)
・全身の成長が停止し、生殖腺萎縮
・授乳動物では乳汁の分泌停止
下垂体前葉が、成長ホルモンと性腺刺激ホルモン、プロラクチンの分泌を停止させ、甲状腺刺激性、副腎刺激性成分の同化が増加し、これはそうした緊急事態でより喫緊に必要とされる可能性がある。

比較的少量の薬剤や比較的軽微の傷害での治療が継続される場合、動物は抵抗力を獲得し、第二段階の後半には臓器の外観や機能が実質的に正常に回帰する。しかし、更に治療を継続すると、1~3カ月後(傷害物質の重篤性に依存する)には抵抗力を失い、第一段階で見られるものと類似の症状で衰弱していき、この疲弊段階は症候群の第三段階と考えられる。

第一段階は、危機的状況に突然直面した際に生体が全身に警告を発現する為のものと考え、従って「全身性警告反応期」と呼んでいる。この症候群は全体として、新しい状況に自身が適応する全身性の努力を表しているようなので、「汎適応症候群」と命名可能かもしれない。炎症や免疫体の形成など、他の一般的な防衛反応に類似する可能性がある。警告反応の症状は、ヒスタミン中毒症や外科的ショック、アナフィラキシーショックと非常に類似している。従って、この症候群の発症に大量のヒスタミンや類縁の物質が必須である可能性は低くなく、これらが外科的損傷により機械的に、或いは何等かの手段により、組織から放出される可能性がある。この3段階反応の多かれ少なかれ顕著な形態は、温度変化、薬剤、筋肉運動等への刺激に生体が馴化・慣れた場合の通常反応であると思われる。

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