免疫系のクォーラムセンシング

Antonioli, L., Blandizzi, C., Pacher, P., Guilliams, M., & Haskó, G. (2018). Quorum sensing in the immune system. Nature Reviews. Immunology, 18(9), 537–538. https://doi.org/10.1038/s41577-018-0040-4

要旨

クォーラムセンシングは、集団密度の変化に応じた遺伝子発現プログラムの制御である。これは、バクテリアのコミュニティが、バイオフィルムの形成や生体発光のような活動の同期を介したメカニズムとして最も知られているだろう。本稿は、クォーラムセンシングが免疫細胞の反応制御にも貢献していることを示唆するエビデンスの集積に焦点を当てている。

初めに

クォーラムセンシングは元々、十分な数の細胞が存在しなれば、つまり、一定の密度の閾値に到達しなければ、単一種の細菌細胞間の協力は無意味だという考えに基づいている。バクテリアのクォーラムセンシングでは、インデューサーと呼ばれる可溶性の細胞外シグナルの生成と検出を介してコミュニケーションを取ることで集団密度を監視している[1]。バクテリア細胞のクォーラムセンシングの密度が増加するに連れて、インデューサーの密度も増加する。バクテリアの密度とインデューサーの密度が一定レベルに到達すると、バクテリアの遺伝子発現が集団的に変化し、バイオフィルム形成や病原性、生体発光のような活動の同期が促進される[1]。こうして、こうして、クォーラムセンシングは集団内の細胞が一体となって機能することを可能にし、そうして集団的な存在としての行動を実行する。

クォーラムセンシングが同種のバクテリアだけでなく、共に進化した異種の微生物群にまで及び、それぞれが他の生物学に連結した形で適応することで、ニッチに生息するバクテリア集団全体の平衡を形成し、維持することを目的とした、進化的に安定した相互作用を確立していることがよく理解されている。バクテリアのクォーラムセンシングの根底にあるものに類似した細胞活動の特徴の幾つかが免疫系にも見られる。例えば、クォーラムセンシングは、免疫細胞のサブセットの絶対的なサイズの制御に貢献しサイトカインの分泌などのエフェクター機能の最適化に役立っている。以下に、免疫系のクォーラムセンシングの主な例を幾つか挙げる。

リンパ球によるクォーラムセンシング

Feinermanら[2]は、コンピュータシミュレーションとin vitro実験を基に、エフェクターCD4+T細胞の密度が、リン酸化されたシグナル伝達兼転写活性化因子5(STAT5)、及び抗原刺激中のエフェクターT細胞活性化のレベルの維持における重要な因子だと提唱した。著者らは、STAT5のリン酸化と、恐らくエフェクターT細胞集団の拡大を維持する為に十分量のIL-2を分泌するには、最小限のエフェクターT細胞が必要であることから、抗原刺激の存在下ではクォーラムセンシングの閾値が存在すると指摘した。より最近では、Polonskyら[3]が、局所的な細胞密度が、ナイーブCD4+T細胞から記憶前駆細胞への分化を調整しており、30以上の細胞が関与する集団的相互作用が最も効率的に記憶T細胞分化を駆動したことを証明した。

また、クォーラムセンシングのメカニズムはCD8+T細胞でも作用している。転写因子Bリンパ球誘導成熟蛋白質1(BLIMP1:PRDM1としても知られる)と、活性化後ナイーブCD8+T細胞の終末分化を誘導するには、CD8+T細胞の閾値集団密度が必要であることが観測された[4]。天然のIgM分泌B細胞プールのサイズと、血漿中IgMレベルも、クォーラムセンシングのメカニズムを介して維持されることが示唆されている[5]。B細胞集団が全体として、活性化した天然のIgM分泌B細胞の数をIgG分泌によって制御しているようである[5]。IgGは、FcγRIIBを介して天然のIgM分泌B細胞にシグナルを送り、その細胞数と活性状態を負に制御している[5]。このネガティブフィードバック機構が、資源やニッチへの競合の結果ではない[5]為、この研究の著者らは、IgG がB細胞の密度を報告するインデューサーとして作用することで、B細胞は自身の数を”数える”ことが可能だと提唱した[5]。

骨髄細胞によるクォーラムセンシング

孤立したマクロファージは、ネットワーク内のマクロファージよりも、単位細胞あたりの炎症性サイトカインやケモカインの産生量が少ない事実は、マクロファージのクォーラムセンシングが炎症反応の強度の決定に重要であることを示唆している。また、マクロファージの連携は感染の拡大を制御しており、マイコバクテリアの増殖制御にはマクロファージが重要な濃度で存在している必要がある[6]。これは細胞密度の増加に対するマクロファージ機能の正の制御の例だが、増加した細胞密度が幾つかのマクロファージ機能を低下させることもある。マクロファージによるコンドロイチン硫酸の発現は、その集団密度の増加に応じて低下する[7]。

また、マクロファージは、組織再生中のクォーラムセンシング機構に積極的に参加する。最近Chenら[8]はクォーラムセンシング回路を報告し、損傷した毛包に関して、その毛包を含む皮膚が受けた傷害の大きさと程度を集団的に評価し、再生するかどうかのオール・オア・ナッシングの決定を下す方法を提供する。このクォーラムセンシング回路はマクロファージに依存し、2段階のプロセスにより、損傷した毛包からCCケモカインリガンド2(CCL2)の放出されると、腫瘍壊死因子(TNF)分泌マクロファージがリクルートされ、これによりマクロファージは毛包に蓄積、拡散して毛包に再生のシグナルを送る。最後に、腫瘍におけるマクロファージ密度の高さが典型的な臨床的転帰の憎悪と相関する為、高密度がマクロファージ抑制活性を増強させる可能性がある。実際、固形腫瘍におけるマクロファージ密度を減少させるコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)の遮断は、単剤療法、或いは他の抗ガン治療との併用として成功している[9]。

IL-10を介したサイトカイン産生の協調もまた樹状細胞で最近報告され、IL-10がクォーラムセンシングのインデューサーであることが判明した[10]。IL-10濃度が上昇すると、他の樹状細胞にシグナルが送られ、その炎症性サイトカインの遺伝子発現が一斉に減少する。

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